鎮守の森について


生きもの広っぱの会は、大阪湾南部の埋め立て地「りんくうタウン」の最南端に、かつてこの地域に存在した照葉樹林――鎮守の森を再生することをめざしています。それは人間のための公園ではなく、すべての生きもののためのサンクチュアリ(聖域)です。

鎮守の森とは

鎮守の森とは、神社の境内やその周辺に残された社寺林のことです。古来、日本人は森を「聖なるもの」として畏れ敬い、木を伐ることを禁じてきました。その結果、開発の波を免れた鎮守の森には、その土地本来の植生――照葉樹林が今も残されています。

明治の神社合祀政策に際して、博物学者の南方熊楠はこの鎮守の森の破壊に激しく抗議しました。南方が守ろうとしたのは、神社そのものだけではなく、数百年、数千年かけて育まれた生態系の全体でした。

鎮守の森を構成する主な樹木は、内陸部ではシイ、カシ、クスノキ、海岸沿いではタブノキ、スダジイ(シイノキ)が中心となり、その下層にモチノキ、クロガネモチ、ツバキ、サザンカなどが生えています。こうした植物群にどのような動物や菌類が生息できるか、その全体をバイオーム(生物群系)と呼びます。

私たちのモデル ― 男神社の鎮守の森

この会がモデルとするのは、生きもの広っぱの近くにある千数百年の歴史をもつ男神社(おとこじんじゃ)の鎮守の森です。隣接する天神の森も、松がクスノキに遷移しつつあるとはいえ、今なお松林が残っています。

男神社の森には、この地域の気候と土壌に適応した照葉樹林の原型が息づいています。私たちは、この森を手本として、埋め立て地の上に同様の生態系を一から再生しようとしています。

埋め立て地に苗木を植える活動の様子 ― 右上に将来の鎮守の森のビジョンが重なる
荒れ地の現在から、鎮守の森の未来へ

この土地の記憶 ― 男里川河口の変遷

生きもの広っぱが隣接する男里川河口には、かつて白砂青松の風景が広がっていました。夕方になるとツバメやコウモリが空を暗くするほど飛び交い、周辺にはバッタやトカゲ、トノサマガエルが生息していました。

しかし昭和30年代の護岸工事で松林は伐採され、高い堤防だけが残り、生きものの大半は消滅しました。十年ほど前まではボタ山にサギ類が数百個の巣を作り、キジやタヌキもいて、それなりの自然が残っていましたが、今は取り払われ、大きな工場が建っています。

関西空港の建設に伴い、大阪湾南部は商工業用地として埋め立てられました。その最南端の一角(都市計画緑地区域)に、生きものを回復しようとするサンクチュアリを作ること――それが、この会の出発点です。

めざす森の姿 ― 照葉樹林の再生

私たちがめざすのは、見映えの良い人間中心の公園ではありません。産廃の混じる固い粘土質の土地を、すべての生類が生きられる土壌に転換し、潮風に強い樹木や草花を植え、野鳥や昆虫が集まれるニッチ(生態的地位)を作ることが基本的な課題です。

鎮守の森の主役たち

スダジイ(ブナ科)は土壌を選ばない適応力があり、乾燥にも湿気にも強く、粘土質の土でも大木に育ちます。秋にはドングリを落とし、小動物や虫を呼び寄せ、土壌を豊かに変えていきます。

カシの木(アラカシ・シラカシなど)の根は「粘土を砕く力」が非常に強く、硬い層に食い込んで空気の通り道を作り、土壌の酸素不足を防ぎます。

タブノキ(クスノキ科)は水分の調整役で、湿り気の多い重い土を好み、土中の過剰な水分を吸い上げて蒸散させる「天然のポンプ」として機能します。

これらの照葉樹が繁り始めると、落ち葉が地面を覆い、自然と雑草は生えなくなります。その一方で、ヒバリなどの草地性の鳥のために、雑草地もそのまま残しておく必要があります。森と草地の共存が、豊かな生態系を支えるのです。

生息地ネットワーク

生きもの広っぱは単独で存在するのではなく、大阪湾、男里川、天神の森、男神社の鎮守の森、点在する溜池といった周辺の生息地とつながるネットワークの一部です。

森づくりを支える思想

「すべてのものに魂が宿り、原初、人間と自然は一体であった」とするアニミズムの世界観が、マルチ・スピーシーズ人類学などの分野から改めて見直されています。

アニミズムを知ることは、動植物や菌類など、あらゆる生類あってこその人間であることを知ることです。人間は自然に依存してしか生きられません。この当たり前のことを忘れ、自然を操作し支配できると考えた結果、気候変動、温暖化、地球環境汚染がひっ迫し、多くの種が絶滅の危機に晒されています。

大人と子どもの手がドングリの芽を土に植える ― 木漏れ日の差す鎮守の森の中で
ドングリから始まる、未来の森へのいのちのリレー

未来への責任 ― ハンス・ヨナスの倫理

私たちは、これから生まれてくる子どもたちやすべての生類に対して責任があります。哲学者ハンス・ヨナスは、この責任を次のように表現しました。

「あなたの行動の結果が、地球上の生命の永続性と調和するように行動しなさい」

「あなたの行動の結果が、地球上の生命の将来の可能性を破壊しないように行動しなさい」

「地球上で人類が生き続けるための条件を危険にさらしてはならない」

――ハンス・ヨナス『責任という原理』

気候変動が現実となった今こそ、この命題を真摯に受け止め、子どもや動植物など弱きものに対する配慮と責任として、自分たちにできることから始めることが、今を生きる世代の務めであると考えます。

それぞれに住まう地域で、生態系が復元し存続できる場所を作ること。それが、生きもの広っぱの会の第一のミッションです。