生きもの広っぱの会 趣意書

はじめに

五万年前、人は生態系を逸脱しました。狩猟採集と農耕の頃は人口も一万数千年前の数百万人から農耕時代末期の二億人まで増えたものの、超大型哺乳類などは滅びましたが、人の自給自足経済では、生態系の大きな破壊は見られません。

人間の手による止めどない自然破壊、その結果としての種の絶滅や気候変動、汚染物質の氾濫などは、大量生産大量消費のサイクルによります。それは17世紀のヨーロッパで人と自然を分断させる考え方が支配的となり、それ(主観と客観の分離)が功を奏して科学が進展し、産業革命が起こった結果だということが今では知られたことです。森の中で荘厳さを、自然への畏敬を感じとっていた太古の人たちとは全く反対です。

私たちは、世界中で寸断された自然を見るにつけ、その回復に向かえるのか、どうすればよいのか、滅びるしかないのか、暗澹たる思いです。そうした混沌とした世界にあって、わたしたちは、それぞれに住まう地域で、生態系が復元-存続できる場所(ニッチ)作りをすることが、私たちの第一のミッションで、未来の世代、すべての生類に対する責任であると考えます。

二点としては、これまで国の物差しとしてのGNP、社会の営みとしての利便性、快適性、個人の幸福追及などがありますが、わたしたちは、そうした基準を根本的にひっくり返し、人の限りない欲望をコントロールするといった考え方への根本的な転回をめざしています(*1)。

第三に、第一、第二を受けて、私たちの日常生活を謙虚に見直すことが何よりも大切だと考えます。


Ⅰ. <生きもの広っぱ>の地域の様相(過去・現在・未来)と課題

今も世界は「人間が万物の長だ」とする考え方ですが、この世界の土台を作ったのは光合成を行う植物で、植物こそが生命の土台です(*2)。したがって気候変動や温暖化を食い止めるには、大量生産大量消費を抑制するだけではなく、世界中の生態系を地域ごとに回復することが切迫した課題です。

それにはそれぞれの地域での植物の植栽から始めるしかありません。それとともにモノの考え方[人間>動物>植物]を百八十度、転回する[植物>動物>人間]ように努めることが大切なことです。

地域の歴史と現状

私たちが「生態系の回復及び管理」として引き受けた<生きもの広っぱ>は、大阪湾南部を関西空港関連の商工業用地として埋め立てた「りんくうタウン」の最南端に位置しています。

  • かつての風景: 隣接する男里川河口には白砂青松の風景が見られ、夕方にはツバメやコウモリが空を覆うほど飛び交い、バッタやトカゲ、トノサマガエルが生息していました。
  • 変遷と破壊: 昭和30年代の護岸工事で松林は伐採され、高い堤防だけが残り、生きものの大半は消滅しました。10年ほど前まであったサギ類の営巣地やタヌキの住処も、今は取り払われ大きな工場が建っています。

本会の発足と課題

当会は、議会での北出(当時、議員)の提案と行政(大阪府・泉南市)の承認(*3)の下、「大阪湾を埋め立てた商工業用地の南端の一角に生きものを回復しようとする<サンクチュアリ>」という考え方から始まりました(*4)。

まずは産廃の混じる固い土地を、すべての生類が生きられる土壌に転換し、そこに潮風に強い樹木や草花を植え、野鳥や昆虫が集まれるニッチ(*5)を作ることが基本的な課題です。

モデルとしての鎮守の森

この会がモデルとするのは、地域にある千数百年の歴史を持つ男神社の<鎮守の森>です。

  • 主な樹種: シイ、カシ、クスノキ、タブノキ、スダジイ、モチノキ、クロガネモチ、ツバキ、サザンカなど。
    これらの植物群にどのような動物や菌類が生息できるか、その全体をバイオーム(生物群系)として学ぶことも欠かせません。

Ⅱ. これまでの考え方の転回

世界を覆っている工業化・都市化による地球環境破壊にあって、原初、人間と自然が一体化していたとする「アニミズム」が見直されています。人が森を出て農耕社会に入り、科学が世界を支配するようになった結果、人間は傲慢になり、生(森)の神秘性は霧散しました。

アニミズムを知ることは、あらゆる生類あってこその人間であることを知ることです。人間は自然を操作・支配できると考え、世界中を工業化・都市化してきた結果、現在、世界では42,459種、日本国内でも3,772種もの絶滅危惧種が存在しています(*6)。


Ⅲ. 人新世の時代の倫理

僕らは、これから生まれてくる子どもたちやすべての生類に対して、責任があります。未来の子どもたちや生きとし生けるものらへの「生の配慮」、すなわち「未来倫理」が欠かせません。

ハンス・ヨナス『責任という原理』より

  • 「あなたの行動の結果が、地球上の生命の永続性と調和するように行動しなさい」
  • 「あなたの行動の結果が、地球上の生命の将来の可能性を破壊しないように行動しなさい」
  • 「地球上で人類が生き続けるための条件を危険にさらしてはならない」

この命題を考え、子どもや動植物など「弱きもの」に対する配慮・責任として、自分たちにできることから始めることが、今を生きる世代の責任です。


Ⅳ. 私たちの日常規範

生態系の回復に努めることは、これまでの価値基準(GNPや利便性、快適性など)を反省し、生活の質の豊かさを実行してゆくことと一体です。

  • 車より自転車を使う
  • プラスチック製品をできるだけ使わない
  • 電力の無駄使いをしない
    これらをみんなで話し合うことが大切です。

注釈・資料

  • *1: 「われわれを導いてくれる権威の源泉は…われわれはこの世界の内部で今あるわれわれになったのだということで十分だ」「人間の自然的本性は、真理や価値判断、それに自由の十分な基礎である」(ハンス・ヨナス)
  • *2: 「植物こそが世界を作り上げている」、つまり「わたしたちの世界は、動物事象である以前に植物事象」である(『植物の生の哲学』コッチャ)。
  • *3(整備方向): * 人間が主役の他のエリアとは異なり、動植物が主役の聖域(サンクチュアリ)を創出する。
    • 男里川河口部と一体的な整備を図る。
    • 主要施設:野鳥園・人工池、野鳥館、海浜緑地(展望台・散策路等)。
  • *4(サンクチュアリ): 聖域、避難所、禁漁区。
  • *5(ニッチ): 生物学で「適応した特有の生息場所(生態的地位)」を指す。
  • *6: レイチェル・カーソン『沈黙の春』が警鐘を鳴らしたように、生物が土壌を形成し、無数の生物がうごめいていればこそ、大地はいつも緑の衣でおおわれている。センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)を授けてほしい。